塚越 則子(つかごし のりこ)です。
1992年来星。シンガポールPR(永住権)保有者。
シンガポールで1番長い指導歴の日本人ピアノ講師です。
シンガポールは日本とはピアノ教室の事情が異なり、講師の自宅でお教室を開講することは法律で認められていません。
当ピアノ教室は、シンガポール政府の定めた法律を遵守した、講師が生徒さんのお宅に出向いてレッスンを行う、出張ピアノ教室です。
Q&Aシリーズ⑩
先生のお宅でのレッスンはありますか?
本日は、シンガポールで日本製の電子ピアノやエレクトーンを使う方に対して、楽器の命を守るために、必ず守っていただきたい最重要事項をお伝えする内容です。
最近、当ピアノ教室でのレッスン受講を希望される方々からのお問い合わせで、日本から持ち込んだ電子ピアノ、エレクトーンに、うっかり変圧器を通さずに電源を入れてしまったため、音が全く出なくなった、といった、とても悲しいトラブルの修理に関するご相談を相次いでいただき、大きなショックを受けています。
このようなことは、以前はあまり見受けられませんでしたが、近年、同様の事例が急激に増えてきた背景には、海外対応の家電機器が、身の回りに多くなってきたことも理由にあると、私は考えています。
日本に暮らしていると普段意識することはありませんが、一昔前までは、日本の電化製品を海外で使用する場合は、必ず変圧器とセットの使用で、加えて、その国に合わせた形状のプラグ(コンセントの差し込み口)も必要なため、あらかじめ入念な準備をするのが普通でしたが
最近は、お手持ちのスマートフォンやノートパソコン、デジタルカメラ、ヘアドライヤーなどに、100〜240Vなどという表示があれば、変換プラグは必要なものの、変圧器を介さなくても、手軽に充電することが可能な、とても便利な時代になりました。
ちなみに、私はiPhoneユーザーですが、iPhoneも100〜240Vまで対応なので、世界のどの国でも変圧器なしで充電ができます。
シンガポールでの充電時と日本での充電時。
日本製の電子楽器をシンガポールで使用するには、変圧器が必要です。
しかし、電子ピアノやエレクトーンなどの大型の電子楽器は、電圧の異なる海外に、個人が持ち運んで演奏する事を想定した製品ではないため、日本製の電子楽器をシンガポールで使用する際は、必ず変圧器が必要です。また、その使用は個人の責任において、と取扱説明書に明記してあるため、細心の注意が必要になります。
【電子ピアノ/電子キーボード】日本で購入した製品を海外で使用できますか?
日本国内でお買い求めいただいた製品は、国内でのご使用に適するように設計、製造をいたしております。
また、楽器の電気的な仕様や製品の保証も購入国内に限らせていただいていることから、ご購入国以外でのご使用は基本的にはおすすめいたしかねます。ヤマハ公式サイト よくあるお問い合わせ
日本製の電子楽器に変圧器を通さないで使用すると「過電流」が起きます。
日本の電圧は100V、周波数50-60Hzなのに対し、シンガポールの電圧は230V、周波数は50Hzです。
シンガポールは、日本より電圧が高いため、そのまま使うことはできません。
変圧器を使わずに日本製の電子楽器のコンセントを直接繋いで電源を入れると、楽器内部では「過電流」の状態が起こります。
「過電流」とは、許容量以上の電流が流れることです。日本とシンガポールのボルト数の違いは倍以上ですから、日本製の楽器を変圧器を通さずに電源を入れた場合、楽器には相当な負荷がかかると想像できますね(涙)
過電流が起こる原因は大きく分けて2種類あり、間違えた配線や故障によるものであればヒューズの交換で修理が可能な場合がほとんどですが
許容量以上の電圧が流れたことによるものが原因の場合は、配線内までも一瞬にして焼き焦げ、ダメージは楽器の心臓部まで達し、楽器そのものが破損するため、修理は、ほぼ不可能です。
希望すれば部品の交換、組み立てからの作業が可能な場合も稀にありますが、必要な部品は日本からの取り寄せになり、全ての部品が揃うかの調査には時間がかかり、また仮に全ての部品が揃ったとしても、現在のコロナ禍の状況で航空機も減便しているため、空輸の時期は未定であり、修理には、新品の購入よりも遥かに膨大なコストが掛かることになります。
当ピアノ教室は、鍵盤楽器についてのご相談に広く応じることができるのが特徴です。
私は、来星前にヤマハのデモンストレーターとしてアコースティックピアノや電子ピアノの新機種の開発、デモンストレーションに携わっていた経験があり、現在もヤマハ時代に築き上げた様々なネットワークを通じ、国内外の新機種の鍵盤楽器や指導法、演奏法等の情報をリアルタイムで入手、研鑽を続けています。
楽器購入のご相談に始まり、楽器の使い方や普段のケアに至るまで、指導者の豊富な音楽経験と在星年数を活かした、きめ細やかな対応は、他のお教室では得られない、当ピアノ教室ならではの特徴の一つでもあると、保護者の方々からは、常に厚い信頼を寄せていただき、高い評価をいただいております。
シンガポールのピアノ教室/アクシデントを乗り越えピアノ再開へ。小2女の子。
ちゃんと使いこなしていますか?/明日から始められる電子ピアノ活用術。
ママからのご質問3/電子ピアノをリビングに置くときに気をつけるポイントは?
しかし、変圧器を通さずに「過電流」によって楽器の心臓部に致命的なダメージを負ってしまった電子楽器は、救命することができません。。。
もし過電流で楽器が破損してしまった時に、心がけたい事。
変圧器を使用せずに使用したために、電子楽器が破損した時、現実を受け止めることは、とても難しく、何とかして直したい、直せるに違いないと信じたくなりますね。
一瞬の過ちをクヨクヨと後悔したり、やるせない気持ちになるでしょう。未練が残り、思うように、心の整理をつけて、割り切って考えることなど、そう簡単にはできません。
私には、その気持ちが、とてもよく理解できます。私たちプロにとって、電子楽器は、単なる電化製品ではなく、命ある、生きた存在だからです。
でも、過ぎた事を悔やんでいても、何も始まりません。
お子さんの過ちであったとしても、ご自身の過ちであったとしても、どうぞ誰かを責めないでくださいね。
このように考えたらいかがでしょう?
音が全く出なくなってしまった電子楽器は、自分の身を犠牲にして、私たちを守ってくれた
過電流はともすると、場合によっては発火したり爆発のおそれもあり、大変な危険を伴います。
過通電でダメージを受けた楽器は、外見は何の変化もありませんが、内部では保護回路が働いて、発火や爆発を抑える機能を、静かに発動させている状態です。
楽器は身を呈して、使っている人を危険から守ってくれた訳です。楽器は最後まで弾いてくれた人のことを大切に想ってくれていたに違いありません。
だから、悔しいけれど、その気持ちに感謝して、寂しいけれど、悲しいけれど、今までありがとう、とお礼を言ってあげてくださいね。
次の楽器を迎える気持ちへと、なかなか思いを切り替えてることができないかもしれません。
だけど、次に進む元気が出たならば、その日からは、もっともっと楽器を大切にして、もっともっと楽器と仲良くなって、たくさんの素敵な音楽を奏でてあげてくださいね。
最後に。
日本から、海を越えて、はるばるやってきた「電子楽器さん」の命が、これ以上、はかなく消えてしまうことのないように。
電子楽器に限らず、炊飯器や魚焼き器など、日本から持ってこられた電化製品に電源を入れる時には、どうぞ細心の注意を心よりお願い申し上げます。