こんにちは。
シンガポールの出張ピアノ教室
fairy wish creation
塚越 則子(つかごし のりこ)です。
1992年来星。シンガポールPR(永住権)保有者。
シンガポールで1番長い指導歴の日本人ピアノ講師です。
当ピアノ教室は、シンガポール政府のお教室ガイドラインを遵守した、出張ピアノ教室です。
今日は、当ピアノ教室でピアノレッスンを始めて6年目に入った、小学校6年生の女の子の最近のレッスンの様子をご紹介します。
さらに上達した!小学6年生、初めてのドビュッシーに挑戦中②(動画あり)
ドビュッシー初体験、初のフラット6つ!
ピアノが上達するにつれて色々なピアノの響きに興味が湧いてきた生徒さん。今回ドビュッシーの曲にチャレンジをすることになった最初のきっかけは、オンラインレッスンを実施していた4月、5月、6月に、いつものテキストの曲と少し違う傾向の曲を練習したことです。
不思議なユニコーン/小6女の子とのオンラインレッスンエピソード
この頃のレッスンを振り返ってみると、たった数ヶ月前のことなのに、はるか昔の出来事のような感覚がしてしまいます。なんだか不思議ですね。
この生徒さんは、学校のオンライン授業にも慣れてきて余裕が生まれてきた頃に初挑戦した、ミステリアスなホールトーンが使われた曲を弾いて、ピアノの音の響きからイマジネーションを膨らませて「自分だけの音の世界」を見つけていく探求の面白さに、一気に目覚めたようです。
【近未来の響き?!】ピアノでホールトーンスケールを弾いてみよう(演奏動画あり)
似たような雰囲気の曲を、もっと弾いてみたいと感じている、お子さんの心の動きを敏感に感じ取った、元ジャズピアニストのお母さんが弾いてくれた、ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」の演奏を間近に見たことが、大人の響きへの扉を開くきっかけとなり、今回のドビュッシーチャレンジへの心を固める決定打となりました!
実際フタを開けてみると。。。
ドビュッシーの曲は、フラットが6個! 同時に弾く音の数が多い! 手を広げる!
大変聡明で、思慮深い性格の生徒さんは、譜面を見ただけで、演奏の複雑さを頭の中でパパパパっとクリアにイメージして(どうやら実際の難しさよりも五割増しくらいで想像したようです 笑)
「これはとっても手強いぞ!!」と、音を出す前からすっかり怖気付いて軽くパニックになり、それまで最高値だった意気込みの数値が、ダダダダっと目減りしてしまったようです。
考えてみれば無理もありません。今まで弾いてきた曲のフラットは多くて3つですから、いきなり2倍の数。
ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド、と7音ある音のうち、フラットがつかない音は「ファ」だけです。
フラットがつく、と言えば、今までは左隣の黒い鍵盤を弾くことだったのに、「ド」のフラットは隣の白い鍵盤を弾くことになり、音は「シ」になる、というのも、???と、混乱を招いたようです。
それでも気を取り直して、前向きに頑張る姿勢を見せている生徒さんの気持ちを尊重して、普段でしたらレッスンの中で一緒に譜読みをして、ある程度自信を持って弾けるようになってから、復習を宿題にするところを、まずは、お母さんと一緒に練習をしてみたいと楽しみにしている生徒さんに一任してみることにしました。
授業から離れた夏休みの自由課題のような位置付けとして、私は練習の様子をしばらく見守る心づもりでいましたが、早くも2週間目の夜、お母さんからSOSのメッセージ着信。それならば、即座に作戦変更です!
ピアノ経験者の保護者の方が、子どものピアノレッスンにできること。
もう、私は子供じゃない
この生徒さんに限らず、4歳、5歳の頃からピアノレッスンで何年も毎週ごとに会っていて、性格や好みを知り尽くしている生徒さんでも、10歳を過ぎる頃になると、それまでとは違う表情や反応を、時折見せることがあります。
大人の階段を昇っている途中と言えばそれまでですが、心の中はきっと複雑に揺れ動いているのでしょう。
思うようにいかない時、感情のコントロールがとても難しくなってしまうのも、この年齢ならではです。大人から意見されることに対して無条件に激しい不快感を感じることもあるようで、一気に不機嫌になってしまうこともあります。
間違えることに強い拒否感があって、自信を喪失したり怒りが湧いてきたりしても、その感情に飲み込まれてしまわないように、様々なアプローチで上手く救ってあげることが、ピアノ指導者として以前に、周りで成長を見守る大人の一人としてできる最善のことですが、そうとわかっていても、たくさんのお子さんと接する経験を積まないと、その手綱捌きは、なかなか難しいものです。
私も30代、40代の頃は、突然不機嫌になってしまったり、突然黙り込んでしまったりする「お年頃」の生徒さんを前にして、その理由が分からずショックを受けて、レッスンでは何気ない風を装っていても、夜になると眠れないほど悩んだものです。
さっきまでは些細なことでもコロコロと笑っていたのに、いきなり訪れた、この重苦しい空気はなんだろう? この深刻さはどこからきているの? 私に何ができる?
きっと生徒さん本人にも理由はわかっていません。そもそも理由などなく、単に気持ちがささくれだっただけなのかも知れません。ピアノを弾いているうちに、過去の何かを想い出したのかも知れません。
だから理由を探して「どうしたの?」「なぜ?」と理由を執拗に追求することには、多分意味がありません。明確な答えはきっと返ってくることはなく、ビターな時間だけが無駄に過ぎていくことになるでしょう。
こんな時私は、あえて知らないフリをして、一つ一つの行動に過剰な反応をしないようにしています。それは「放任」ということではなく、一人の人間として接して感情のスペースを確保しながら大人の距離感を保っていくということです。
もちろん、だからと言って、わがままを許すということではなく、あくまで指導者としてのスタンスで接することは言うまでもありません。
生徒さんは、子供扱いされているのではなく、一人の人間として存在を認めてもらい、自分の考えが尊重されていると実感すると、安心して心を開いて、心のうちや思いの丈を少しずつ打ち明けてくれるようになります。
そして自信を持って新しいことに挑戦する勇気が出てくると、心に余裕が生まれて、表情も明るくなります。
練習を重ねた先で到達できた、初めてのノーミス
この生徒さんは、聡明であるがゆえに、始めてのドビュッシーに構えてしまい、難しく考えて深刻になっていることが全ての元凶だとわかったので、新たな作戦ではまず、複雑に絡み合った感情の糸を丁寧にほぐすところからスタートしました。
そのカギを握っていたのは、表現の研究です。
表現に万人に共通する正解はありません。表現方法のやり方は教わっても、表現の付け方は料理の味付けと同じ。本来教わるものではなく、感覚を研ぎ澄ませて自分の内側から滲み出てくる感情を音にしていく、能動的な作業です。
自分なりの思いや考えを音にのせていくときには、クリエイティブな頭の使い方が要求されます。この生徒さんも、初めてのドビュッシーの音で、教わるだけの受け身ではなく、積極的に「思考」して、自分だけの表現を模索していく過程で、読譜への理解が深まり、自信がついてくるに従って本来の力が存分に発揮できるようになると、音に生き生きとした生命が宿ってきました。
さぁ、ここまで来れば、もう一安心です。
動画を撮る前、私は、「一番いい演奏をしてね」と、あえて強いプレッシャーをかけました。生徒さん自身の持っている演奏力と精神力を信頼しているからこそのチャレンジです。
彼女は、その言葉に全く怯む様子もなく、かといって力む様子もなく、まっすぐ静かに譜面を見つめて最初の一音を丁寧に沈めた後、立派に最初の7小節の部分をノーミスで弾き切りました。
「やったね、すごいよ! 緊張した時に一番いい演奏ができるって言うことは、本番に強いことの何よりの証明だよ」
動画から、彼女の気迫が伝わりましたか?
次の動きを一つ一つ慎重に確かめている指は緊張のため、微かに震えています。
これからも、さらに豊かな表現を目指して納得いくピアノの音を追求していく、二人三脚の共同作業は続きます。