こんにちは。
シンガポールの出張ピアノ教室
fairy wish creation 講師の
塚越 則子(つかごし のりこ)です。
今日は、ピアノレッスンでの合格の基準についての私の考えをお話してみたいと思います。
ピアノレッスンをしていて、生徒さんに「マル」を与える、あるいは合格を告げる基準というものは、なかなか難しいと思います。
私はシンガポールで30年ピアノ指導に携わっており、世間一般ではベテラン先生と言っていただく1人ですが、今でも迷い、悩むことがしょっちゅうあります。
どうすることが生徒さんにとって一番いいことなのか。将来のためになるのか。その答えは決して一つではないからです。
これから書く内容は、あくまでも私の個人的な見解、考え方であり、考え方は人それぞれ、もちろん違った考え方を持って指導されておられる先生方も大勢いらっしゃいます。
どれが良い、どれが悪いということではなく、あくまでも、当ピアノ教室では、そういう考え方のもと、生徒さんの合格の基準を決めているということで読み進めていただければと思います。
曲の合格というのは、何も基準がありません。
平たく言ってしまえば「先生がマルにしましょう!」と言ってしまえば「マル」です。
当ピアノ教室では、生徒さんの
❤︎年齢
❤︎能力、レベル
❤︎性格
などに応じて、その都度合格の基準を変化させていますが、共通の最低ボーダーラインは
きちんとピアノ音楽になっていること
指のフォームや指づかいに問題があったり、たくさん弾き直しをしたり、途中で止まったり、リズムが間違っている場合は、残念ながら「今週も練習してくださいね」となります。
反対に多少のミスがあっても、「マル」にすることもあります。「たまたま間違えた」のか、「いつも間違えている」のかは、プロが演奏を聞けば、説明がなくても一目瞭然だからです。
普段は弾けているのに、ミスしたことなんて一度もないのに、先生の前では緊張して間違えてしまった、なんでここで??(涙)というのは、私も何度も経験していますよ。
なぜ、合格基準のボーダーラインを設けているかというと、それには理由があります。
当ピアノ教室の生徒さんは駐在員のご家族が中心のため、日本でピアノを習った経験を持つ生徒さんも多いです。また他のお教室から移ってこられる生徒さんも少なくないのですが
「あれ?これ習っていないのかしら?」
「音符が読めてない?」
「リズムが把握できてない?」
という生徒さんが結構おられることに愕然とします。
そして、いつも痛切に感じるのです。
私自身は、生徒さんにこのパターンを やってはいけない
と。音楽的な基礎が備わっていないと、はじめはよくても、やがて、その先に進みたいと思った時、次に進めなくなり、上達が頭打ちになります。前に戻ってやり直しをしないといけません。そして後悔することになります。それは1年後かもしれないし、5年先、10年先、20年先かもしれません。
あのとき、ちゃんとやっておけばよかった
大人になって趣味でピアノを弾く場合も、子ども時代に基礎がシッカリとできていると、苦労することなくスムーズに先に進むことができて、楽しみの幅がグーンと広がるのですよ。その道筋をつけていくのが最初の数年のレッスンなのです。
しかし、幼い生徒さんの場合
音が鳴っている→弾けている
と思ってしまうことがあります。そして、同じ曲を長くやると
「あきてしまう」
のですね。
指導者から見ると「まだ全然出来ていない」ので、教えてあげたい、もっとよくしてあげたいと思うのですが
本人が「出来ている!」と思っているのですからこれ以上はどうにもなりません。そんなときは
「いったん合格」として、オマケをする場合もあります。
ただ、こういう場合は、なぜ「いったん合格」なのか?という理由を、おうちの方にご説明するようにしています。
音楽的知識をお持ちでない方にも、なるべくわかりやすい言葉で噛み砕いて、具体的な説明をするように心がけていますが、もしかしたら、分からないといったケースもあるかもしれません。
もちろん、尋ねてくだされば再度お話するのですが、それでもまだ?????というときは
もう信頼して任せていただくしかないですね。ピアノを弾くために必要なスキルは、言葉では説明しきれないことも、実はたくさんあるからです。
ここで生徒さんや保護者の方々に考えていただきたいことは、
「マルをもらうことがレッスンの目的になっていないだろうか」
「テキストを先に進めることが上達の目安になっていないだろうか」
ということです。
確かに、マルをもらえれば、ピアノを習いはじめて年数が短い、幼い生徒さんは、とても喜びます。そんな姿を見ると私も一緒に嬉しい気分になることは確かです。
ただ、レッスンを受けることは、たくさんマルをもらうこと、たくさん曲を弾くことだと、短絡的に結び付けて考えてしまうと、上達の過程で煮詰まってしまう時がきます。例えば
◆曲の難易度が上がってきて大曲に挑むようになり、弾けるのに手こずるようになったとき
◆曲について求められる音楽的表現力が、以前よりも高度になってきたとき
◆発表会や行事の伴奏、オーディションなど、一定の仕上がりや基準を求められるとき
こういう場合は、「音があっていて止まらずに最後まで弾けた」だけではOKにならないことも、当然出てきます。
また、一見矛盾しているようですが、ある程度実力がついてくると、簡単に弾けて、余力があるからこそ
あえて合格にしない
というパターンも出てきます。
さらに深掘りして、高度な音楽的技術や表現力を身につけるために、同じ曲を、時間をかけてじっくり練習することは、大変効果があるからです。
しかし、【不合格=ダメ出し】と捉えてしまうと、このメリットに気がつくことができません。
昨日のレッスンでのこと。
当ピアノ教室に入会されて3年目に入った、小学1年生のHちゃんに、ある質問を投げかけてみました。
「もう間違えずに上手に弾けるようになったから、来週、この曲マルをしようかなと考えてるの。Hちゃん、どう思う?」
Hちゃんはしばらく首を傾げたのち、ハキハキとした声で、こう答えました。
「まだもっとやりたい」
「もっとうまくなりたい」
私はとてもビックリしてしまいました。と同時に嬉しくてたまらなくなりました。
1年ほど前のHちゃんだったら「合格」の言葉に即座に反応して「マルがいい」と、間違いなく答えていたでしょう。
合格をもらえることを日々の励みに練習していたHちゃんだからです。
熱心な練習の成果もあって、進度が早いHちゃんは、本来ならばもっと先で習う、音楽的に、さらに踏み込んだ領域のテクニックも、先取りして一気にマスターできる実力があるのですが
当時、Hちゃん自身に「本当はマルなんだけどね」と前置きしてから、新しいことに挑戦してみる気持ちがあるか、さりげなく聞いてみても、キョトンとした表情を浮かべるだけでした。
まだ時期尚早だったのですね。
いつの間にか成長しているのは身体だけではないのです。
この春、小学1年生になり、会話での受け答えもお姉さんらしくしっかりとしてきました。物事に対して落ち着いて取り組む姿勢はすでに整っていましたが、最近になり、さらに磨きがかかったようです
もともと口数が少なく、大人しいタイプですが、聞かれたことに対して、すぐにではなくても、自分の考えを言葉にして、きちんと伝えることができるようになりました。これは大きな進歩です。
音楽に対しての感度も、日々成長しているのですね。
「もっとうまくなりたい」は「私はまだ上手ではない」と思っているということではありません。
自分に自信があるからこそ、自分の力を信じているからこそ出てくる言葉。
音楽は音があっている、間違っているという単純な世界で成り立っているのではないのだということを、7歳なりに理解して、真剣に取り組んでいる証拠なのです。
私が嬉しくなった気持ちが、わかっていただけましたか?
勝手だと思われてしまうかもしれませんが、私はピアノ指導者として、生徒さんたちの能力をもっと引き出してあげたいと、ついつい「欲」を持ってしまうのですが、気持ちが先走りしないように、生徒さんの気持ちを優先するよう常に心がけるようにしています。
とはいっても、私は読心術を心得ているわけではないので、いろいろ手を尽くして考えを知りたい、わかってあげたいと努力しても難しいことだってあります。そんな時はおうちの方にお尋ねするようにしていますが、お子さんのピアノの練習への取り組みの態度に変化が見られた時などは、些細なことでも聞かせていただけるとありがたいです。
こんなことが?ということが、プロの目線から見ると、レッスンに役立つといったこともあるのですよ。
今回、Hちゃんは、誰の力も借りず、自分の気持ちをキチンとお話してくれました。とても嬉しかったです。ありがとうね。話してくれなかったらわからなかったもん!
思いっきり照れながら、立って弾いています(笑)
Hちゃんがバッハのメヌエットの練習に取りかかったのは4ヶ月ほど前。
もちろん他の曲も一緒に併用しながら、コツコツと練習を積み上げて、曲の完成度を高めてきましたが、Hちゃんは、まだ納得がいかないようで、もっと高みを目指したいと意欲満々です。
それならば・・・
「プラルトリラー」と「モルデント」も加えちゃおう!
これらのテクニックは初心者用の「メヌエット」の楽譜では省略してあり、表記自体がありませんから、その存在をご存知ない方も多いかと思いますが
これらの「飾り」がついているのが本来のオリジナル。「メヌエット」をバロック音楽として原曲に忠実に弾くと、曲が一気にグレードアップして、格調高い、高尚な響きになるのですよ。でも基本的なことができていないと、これらのテクニックには進めません。
お母さんに仕上がりのイメージを実際に弾いて聴いていただいたところ
「ああ・・・そういえば、そんな風になってますね!」
と感嘆の声をあげてくださいました。聞くところによると
「飽きることなく毎日メヌエットを弾いています」
とのこと。笑顔で答えてくださいました。
同じ曲を弾いていても、曲には毎日違う表情が宿り、弾くたびに違う楽しみ方があることを知ると、音楽の力を最大限に活かした毎日を過ごすことができますね。上達も着実に早くなります。
我が子がそんなふうにして、ビッグなスケールで、ピアノを弾くことを楽しんでくれたら、親として幸せだと思いませんか?
当ピアノ教室では、自分だけのピアノを奏でる喜びの世界を知ったリトルピアニストたちが何人も育っています。
頑張ることを楽しむ心を育てる
当ピアノ教室のレッスンは、新時代にふさわしい、ワンランク上の心と音楽を学ぶレッスンです。
ピアノを学ぶことを通して、これからの時代を生きるために必要な「人間力」を育てます。
当ピアノ教室は、シンガポールで最も長い指導歴を持つ日本人のピアノの先生が主宰している出張専門のピアノ教室です。
1992年来星。シンガポールPR(永住権)保有者。