こんにちは。
シンガポールの出張ピアノ教室
fairy wish creation 講師の
塚越 則子(つかごし のりこ)です。
現在、ショパンの曲を練習している大人ピアノのレッスン生Nさん(女性)は、レッスン冒頭でゆる〜くハノンを弾いて指をならしたあと、指のウォーミングアップとして「ある曲」を練習曲として使っています。理由は、偶然にも必要なスキルがバッチリとマッチしているから。ある曲とは
坂本龍一さんの「エナジーフロー」
です。
え?
それってちょっとおかしくないですか?
今日は、そんなふうに感じた方への内容です。
大人レッスンの練習曲は目標に直結するようなチョイスを。
指の練習曲として、昭和の時代から脈々と使い継がれている有名な教本として必ず名前が挙がるのが「ハノン」と「チェルニー」です。
かつてピアノをある程度のレベルまで習った経験があると自負しておられる方で、この2つの名前を知らない人はいないと断言できるくらいですが
当ピアノ教室では、ある程度レベルが上がってきた子どもの生徒さんや大人レッスンの生徒さんたちに、指のトレーニングの教材として「ハノン」「チェルニー」をウォーミングアップの練習曲として使用するときには「よく考えてから」「なぜ必要なのか」を丁寧に説明をして、生徒さんの意向を伺い、相談をしてから慎重に進めます。なぜなら
挫折する人が多いから
理由は
退屈だから
「良薬口に苦し」といったところでしょうか。「ハノン」「チェルニー」のシリーズは、私も長年お世話になった、思い入れのある教本です。
とてもよくできた良本ですが、効果を実感できるまでに時間がかかり、容赦無く、執拗に責め立ててくる意地の悪さが随所に散りばめられていることでもよく知られています。
だから苦手意識を持つ人も多いのですね。
退屈なバイエルが終わったと思ったら次はチェルニー。。。
あぁ、一体いつになったら好きな曲を弾かせてもらえるのかな?
子ども時代、そんなふうに感じて、練習に乗り気がしなくなり、次第にピアノから離れてしまった人も多いのではないでしょうか。
そもそも目標の曲に必要なスキルを身につけるためのウォーミングアップに、「ハノン」「チェルニー」を必ず使用「しなければいけない」決まりなどなく、準ずる類いの教本は存在するのですが
使わないのは邪道といった雰囲気で思い込んでいるピアノ経験者は思いのほか多く、指のトレーニングというと条件反射のように「ハノン」「チェルニー」の名前を出すピアノ愛好家の方が非常に多いです。導入期の場合「バーナム信仰」も一部に根強くあるようです。
これほどまでにイメージが浸透しているのであれば、見方を変えれば、「ハノン」「チェルニー」といったキーワードを、ピアノを知らない人との会話の中でチラッと出せば「ピアノの世界の”いろは”を知っている感」が醸し出せるというメリットもありそうですね(笑)
とはいえ、指導者の立場から見れば「呪縛」といったら大袈裟ですが、「刷り込み」から解き放たれて「バイアス」を外せば、もっとラクに、回り道をしないで上達できる道だってあるのにともったいないなぁ…..思うことがよくあります。
ピアノを弾けるようになるために最も大切なのは、なんといってもポイントを押さえて、一つずつ攻略していくこと。
練習曲はあくまで目標を達成するための道具、手段の一つですから、注目すべきなのは「何を使うか」ではなく「どう使うか」だというのが私の考えです。
このアプローチは、大学受験や資格試験などで過去問を分析して、出題傾向に沿った勉強をするのにも通じるのではないでしょうか。
小学生や中学生の頃は「範囲内をまんべんなく勉強しましょう」と教わります。
しかし大人になって 資格試験などに挑戦するときは
出題傾向や形式を先に確認してから分析し、対策を練り、計画を立てる
のは当たり前ですよね?
スポーツでも同じように「特異性の原理」という考え方があります。
【特異性の原理】とは、競技に向けた強化トレーニングは、その競技で使われる筋肉を集中的にトレーニングすることで最も威力を発揮するということ。
競技の特徴 とトレーニングメニューを照らし合わせ、競技内容に沿った筋肉を重点的に強化することで、よい成績に繋がるということ。
「競技」 は「目標曲」 とそっくりそのまま置き換えることができます。
すなわち、高いレベルになってくればくるほど、子どもの頃のような「努力勝負」で、数や量をがむしゃらにこなす練習を卒業して、頭を使って「効率勝負」に意識をシフトしつつバランスを保つことが重要になってきて
その総合力で結果が決まってくる
ということなのです。
昭和の時代は
うさぎ跳びグランド一周!
のような「しごき」は、スポーツの世界では日常茶飯事でしたが、現代では全く見かけることはなくなりました。なぜならば
効果がないだけではなく「身体をこわす」ことが長年の研究によって科学的に解明されたからです。
ピアノの世界も同じですよ。指導の仕方は時代とともに着実に進歩し、進化を遂げているのです。
そういえば以前、女性の大人の生徒さん(鍵盤楽器経験者)でこんな例がありました。
久しぶりに会った友人にピアノを習い始め、ソナチネに入ったと話すと
「ソナチネ、懐かしい!」
「それならチェルニーもやってるんでしょう?」
と尋ねられ
「やってない」
と答えると
「え? チェルニーやらないの? ソナチネ弾いてるのに?」
とビックリされ、不思議な顔をされたのだそうです。
これは、女性同士でよくある、いわゆるマウントですね(笑)
ご友人とのエピソードを、わざわざレッスンで打ち明けることは、すなわちチェルニーを使用していないことに対して、何らかの引っかかりを感じているということを意味します。
「今必要な指のトレーニングは〇〇を弾いていて充分足りていますけれど、チェルニーに興味があるのならば使ってみますか? 単純練習なので、あまりお好きではないかなと思うけれど…..」
とお伝えすると
「いえいえ、先生がそうおっしゃるのならば別にいいんです、忘れてください」ということでしたが、
「やってみたい」
「どんなものか知りたい」
好奇心を満たすことも、この生徒さんにとって大切な経験だと感じたので、取り寄せてもらい使ってみました。
結果…..
最初の数曲を合格したところで
「チェルニーは難しすぎて弾けません」
「だから最近全然弾いてません」
とのことでしたので、片手練習に特化するようにアドバイスすると
片手練習も「とても無理」とのこと。
ソナチネは両手でスラスラと弾けるのに、です。
結局、「チェルニーはしばらくおやすみ」となりました。
こんなふうな現状をお話してしまうと「チェルニー」のハードルが一層高くなってしまいそうですが
練習曲に何を選ぶかは、生徒さんがピアノレッスンに対して何を求めているか、その目的によって変わってきます。相性もありますしね。
前出のNさんは、ピアノレッスンで癒しを求めているので、練習曲は「お手柔らか」なタイプがピッタリ。効果も感じられて満足されています。
一方、自分の足りないところと真正面から真摯に向き合う覚悟を持ち、ピアノと真剣勝負で「ガチ」で挑んでいるYさん(40代男性)は、チェルニーの練習が「筋トレの追い込み」のようで心地よく感じられるようで、積極的に有効活用されています。
要するに、大人のピアノレッスンで求められるのは
自分はピアノを弾いてどうなりたいか
の将来のビジョンを明確に持つこと。
あくまで生徒さんの思いありき。「先生からのオススメ」は、そのあとなのです。
生徒さん一人一人の奏でる願いを叶えるために私たちピアノ指導者がいます。
そのためにどうすればいいかを考え、その都度、マッチした具体的な方法を伝授し、時に手助けをしたり新たな提案をするのが「せんせい」の役目です。
何をどうしたらいいかなど心配はいりませんし、ましてや誰の目も気にしなくていい。
何の遠慮もいらない。
正々堂々と心の贅沢を追い求めていいんです!!!!!
それが大人がプロから指導を受ける醍醐味であり、ピアノレッスンを価値ある、実になる経験へと繋げていくヒントだと、私は日々のレッスンを通じて実感しています。
頑張ることを楽しむ心を育てる
当ピアノ教室のレッスンは、新時代にふさわしい、ワンランク上の心と音楽を学ぶレッスンです。
ピアノを学ぶことを通して、これからの時代を生きるために必要な「人間力」を育てます。