こんにちは。
シンガポールの出張ピアノ教室
fairy wish creation
塚越 則子(つかごし のりこ)です。

 

 

1992年来星。シンガポールPR(永住権)保有者。
シンガポールで1番長い指導歴の日本人ピアノ講師です。

 

 

プロフィール

 

 

指導方針

 

 

ピアノレッスンコース

 

 

 

シンガポールは日本とはピアノ教室の事情が異なり、講師の自宅でお教室を開講することは法律で認められていません。

 

 

 

当ピアノ教室は、シンガポール政府の定めた法律を遵守した、講師が生徒さんのお宅に出向いてレッスンを行う、出張ピアノ教室です。

 

 

Q&Aシリーズ⑩
先生のお宅でのレッスンはありますか?

 

 

 

シンガポールのピアノ教室事情

 

 

今日は、当ピアノ教室でピアノを習い始めて3年目の、9歳の女の子、Kちゃんのお母さんからいただいた手記をご紹介するシリーズの第3回目です。

 

 

 

シンガポールのピアノ教室/「エリーゼのために」9歳女の子の発表会演奏までのあゆみ〜母の手記①

 

 

 

シンガポールのピアノ教室/「エリーゼのために」9歳女の子の発表会演奏までのあゆみ〜母の手記②

 

 

 

当ピアノ教室でピアノを習い始めて3年目のKちゃんは、2020年の発表会で「エリーゼのために」を演奏するために、コツコツと数ヶ月かけて、練習を積み重ねてきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

ピアノを習い始めた人が、弾いてみたい曲として必ず挙げる「エリーゼのために」。

 

 

練習は、いよいよ後半の、クライマックス部分に入っていきます。

 

 

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(以下、お母さんの手記)

 

 

左手のラの連打パート

 

 

楽譜を見て、32分音符のパートに比べてなんとなくスムーズにいくだろうと甘くみていたパート。
いきなり、右手の和音のスラーに苦戦です。

 

 

 

 

 

 

先生のお手本動画を見て、ひたすら見て、同じように繰り返し練習ですが、ひとつ気をつけると別のところのスラーが外れてしまう。といった具合で、全部が正しくつながるのに私の予想をはるかに超える時間がかかりました。

 

 

 

このパートの練習辺りから、先生が自宅に来てくださる通常レッスンに切り替わりました。

 

 

 

まだ、テンポがゆっくりなため、始めから通して弾く練習では、このパートにたどり着く前には集中が切れてしまい、なかなか思うように弾けない様子です。

 

 

 

さらに、お馴染みのパートで間違えが増えるようになってきました。

 

 

 

今までそんなミスしなかったのにどうして?と思い、間違えたところを指摘してしまいます。

 

 

もちろん、娘も間違えに気付いていて、どうしようか考えてるところに、ついつい口出ししてしまいます。

 

 

そこでまた娘の機嫌が悪くなり…もういい!と練習をやめてしまう日もありました。自分から練習する日も少なくなっていきました。

 

 

ここで、先生からのアドバイス。

 

 

「ゆーっくり弾いてみて」

 

 

 

がてきめんでした。
間違えたことを言われると、確かに嫌な気持ちになります。

 

 

 

 

はじめは間違えても何でも、「弾けるようになってきたね!」と声をかけていたのに、だんだん間違えばかりを指摘するようになってしまっていました。

 

 

 

 

「エリーゼのために」の練習を始めた頃に比べると、娘は着実に成長したのに、、私の気持ちが焦っていることに気付きました。

 

 

 

集中するためのアドバイスや、手を大きく広げる練習になる曲を先生から提案いただいて、より良く弾ける練習もはじまりました。

 

 

 

 

 

 

ここは、楽譜の最後のページで終わりが見えてきます。娘も早く一曲弾けるようになりたい気持ちですが、じっくりと右手のスラー、左手の連打の練習が続きました。

 

 

 

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紆余曲折を乗り越えて。

 

 

 

思いの他てこずってしまった、後半からのパートでしたが、無事に危機を乗り越えましたね!

 

 

 

勝因に大きく影響したことの一つは、お母さんが、落ち着いて冷静に状況を理解する理性を保てたことです。

 

 

 

 

 

 

「エリーゼのために」攻略までの道は、一筋縄ではいかず、場面場面に難しいポイントが待ち受けていて、それはKちゃん母娘の想像を遥かに超える、大変険しいものでしたが

 

 

 

普段と変わりなく、指導者の私を常に信頼し心を合わせて、一言一言を真剣に受け止め、共に一歩ずつ、完成までの道を歩んでくださったKちゃん母娘に、心より感謝いたします。

 

 

 

 

私は、今までのピアノ指導経験の中で、ピアノレッスンを始めてから数年すると必ず訪れる、これからのピアノ人生を大きく左右するターニングポイントを、上手く乗り切れずに、残念な結果を招いてしまった母娘を数え切れないほど知っています。

 

 

 

そこまで至るには、必ずサインがあり、それを察知するやいなや、最悪の事態を避けたいと対策を講じても、指導者としての懸命な思いは、時に保護者の方に上手く伝わらないこともあり、そんな時は、なす術がなく、ただ事の成り行きを見守るしかありません。

 

 

 

 

最悪のパターンへの流れは、驚くほど似ています。

 

 

 

 

Kちゃん母娘にも同様に、この頃、ピアノ経験者の保護者の方とお子さんが、最も陥りやすい

【お子さんがピアノから気持ちが離れてしまうパターン】の兆しがあったことが、手記の文面には、はっきりと現れています。

 

 

 

 

 

 

 

『はじめは間違えても何でも、「弾けるようになってきたね!」と声をかけていたのに、だんだん間違えばかりを指摘するようになってしまっていました。』

 

 

 

この状況、とてもよく理解できます。

同時に、私にはKちゃんの心境もわかり、この一文を目にしたとき、移動中にもかかわらず切なくてたまらなくなって、不覚にも涙がこぼれてしまいました。

 

 

 

Kちゃんに限らず、ピアノを学んでいる全ての人は、新しい曲の練習をしているとき、練習を始めた頃に比べて、練習が進んできた時の方が、ミスをしたときの心理的ストレスは何倍も大きくなります。

 

 

 

 

曲に慣れてきて、弾ける自信がついてくればくるほど、ミスする自分を、自分のプライドが許さなくなるのです。

 

 

 

ミスをしたあとの本人の気持ちは、ズタズタに傷ついています。そんなときに、それを、指摘されるほどイヤなことはありません。「どうして?」と問われることほど、惨めなことはありません。

 

 

 

 

ミスを繰り返して、なかなか思うように弾けずに苦しんでいる生徒さんは、歩き始めたばかりの幼児が、走って転んで膝を擦りむいて血が出て、痛くて泣いている状況と、よく似ています。

 

 

 

 

この頃、毎週LINEで届く練習動画に対して、私が出していたアドバイスのキーワードは
「平常心」。

 

 

 

 

たとえ練習で、どんなにミスをしても焦る必要もなく、不安になる必要も全くありません。それは上達のプロセスで必要な浮き沈みなので、適切な対処を、適切なタイミングでしていけばいい、ただそれだけなのです。

 

 

 

 

 

 

しかし、時にピアノ経験者の保護者の方は、全体を把握する前に、その時、その時の状況に過剰に反応して焦ってSOSを発動し、指導に即効性を期待する場合があります。

 

 

 

いま〇〇の状態です。

 

急にこうなってしまいました。

 

どうしたらいいですか??

 

 

 

それは例えると、膝を軽く擦りむいて血がでている傷口を見て動揺し、救急センターに駆け込み、今すぐ元通りに戻す治療をして下さい、家庭で医師に代わってできることを教えてくださいと、自分の理想とする、魔法のような治療法が存在するに違いないと思い込み、お医者さんに質問しているようなものです。ジレンマが生まれるのは無理もありません。

 

 

 

 

傷が治癒するのに、一定の時間が必要なように、この頃の時期のミスにも、なおるまでには時間が必要です。

 

 

 

 

複合的な要因が影響していることが多いので、単純に「これをこうすればできるようになります」というものではなく、段階を追って原因の元から直していくことが大切なのです。

 

 

 

一見回り道のようでも、それが真の実力をつける効率を高め、早く、綺麗に曲を仕上げる1番無理のない近道です。

 

 

 

険しい道でも安心してね。則子先生は繋いだ手を絶対に離さない!

 

 

 

経験を積んだ指導者は、すでに、裏に隠れている問題の根本を見抜き、落ち着いてその先を見越して、適切な処置を講じていることがほとんどです。同時に、できるようになるために紆余曲折があることも十分に理解して、指導の道筋を立てています。全て経験済みで想定内です。

 

 

 

 

しかし、その指導内容は、例えどれだけ時間を割いたとしても口で説明することには限界があり、踏み込んだ演奏スキルや専門用語を含む話になるため、その都度、保護者の方と内容の詳細を共有することは、ありません。

 

 

 

 

 

最終的に目指しているのは、生徒さんの「音楽的自立」でもあるからです。

ピアノ指導者が、まず最優先すべきことは、生徒さんが自ら、正しい音を理解することが出来て「弾けるようになった」実感を得られる瞬間へと導くことだと私は考えます。

 

 

 

 

とはいえ、Kちゃんのお母さんの焦りや苦しみは私にダイレクトに伝わっていました。

 

 

 

 

そこで私は、ある日の練習動画へのアドバイスメッセージに、真面目で努力家のKちゃん母娘だからこそ「刺さる」であろう一言を添えて、全ての思いを込めることにしました。

 

 

 

 

 

「ここでは、さらに一歩進んだ表現力を身に付けてもらいたいと思っています」

 

 

 

 

 

控えめで、だけれど強い意思を持つ、深く優しい音。

それは、私がいつもKちゃんに感じる、Kちゃんの姿そのものです。

 

 

 

大人の女性への階段を一歩ずつ昇り始めたKちゃんだからこそ出せる、今しか出せない、繊細な音色でもありました。

 

 

 

 

 

 

 

Kちゃん母娘は、私の真意を汲んで、見事に「エリーゼのために」の厳しい山を乗り越えただけではなく、ピアノレッスン継続の最大の危機をも立派に跳ね除けることができました!!

 

 

 

 

左手のスラーを気にしながら、ペダルを濁らないように気をつけながらの右手の和音の大きさのコントロールは、とても難しかったけれど、満足のいく「おしとやかな女性の音色」を Kちゃんの力で作り上げることができましたね♬

 

 

 

 

 

 

次回、シリーズ第4回は、「エリーゼのために」の最大の見せ場である「クロマティックスケール」「ペダルの練習」へと続きます。